Cross...8
2007年 02月 07日
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俯いたまま、後をついて歩いていた私の前で、彼の黒い靴が止まった。
角を曲がればTホテルが見えるのに・・・
「・・・まずいな・・・・・・」
小さく呟いた後、私の方に向き直り、微笑んでみせる。
私を見つめたまま、何も言わない彼が気になって、つい聞いてしまった。
「・・・・・・あの?どうしたんですか?」
「・・・・・・これから言うことをよく聞いて。そして、僕の言うとおりにして欲しいんだ」
「どういうことですか?何の・・・」
「今は、何も聞かないで・・・言う通りにしてくれるね?」
「えっ?・・・・・・えぇ・・・」
彼の真剣な眼差しに、私は、つい返事を返してしまっていた。
しばらく考えた後で、「携帯電話を持ってる?」と聞く彼。
「えぇ・・・」
バッグから携帯を出して、彼に手渡した。
彼は慣れた手つきで、ナンバーを押し、どこかに電話しているようだ。
「はい・・・これから・・・では、お願いします。くれぐれも・・・」
途切れ途切れに聞こえてくる断片的な言葉では、会話の内容は理解できなかった。
振り返って、携帯電話を私に渡すと、ポケットから出したものを、握らせる。
「このキーを持って、Tホテルのフロントに行って欲しいんだ」
「これは・・・?」
「今、連絡したから行けば案内してもらえるように頼んであるんだ。僕は、一緒に行けない・・・」
「?・・・・・・」
「僕を信じて・・・・・・今は、これしか言えない。本当は信じてなんて、さっき出逢ったばかりなのに・・・無理を言っているのは分かっているんだ。でも・・・」
「・・・分かりました。フロントへ行けばいいんですね?」
「あぁ、そこでキーを見せればいい。・・・ありがとう信じてくれて・・・」
言いながら、彼は安堵の表情を見せる。
「・・・あの、あなたは?」
「大丈夫、少しだけ遅れて行くから心配しないで」
明るい笑みを浮かべる彼の表情に、不安でいっぱいだった心が少しだけ軽くなった。
「じゃあ・・・」
「後で逢おう・・・」
私は、その場に彼を残してTホテルへと向かった。
入り口の辺りに、2.30人の女性がいて、ホテルの関係者らしき人と言い争うのが聞こえてくる。
「どうなってるの?」
「教えてくれたっていいじゃない・・・」
「申し上げることはありません・・・他のお客様のご迷惑になりますので、お引取り下さい」
「えぇ~!?」
・・・耳に入ってくる会話が気にはなったけれど、今は彼が言ったとおりにフロントへ行く、そのことだけ考えていた。
「いらっしゃいませ・・・」
「あの・・・これをここで見せるようにと言われて来たんですが・・・」
フロントにいた男性は、キーを確認してから
「うかがっております・・・どうぞ、こちらへ、ご案内いたします・・・」そう言って、私の前を歩き出した。
その男性について歩きながら、問いかけてみた。
「あの・・・すみません」
「はい・・・何か?」
「どこに行くんですか?」
「詳しいことは何も・・・ただ、ご案内するようにと、仰せつかっておりますので・・・」
一緒にエレベーターに乗り込んだ。
キャーーーッ!!
扉が閉まる時に、ホテルの入り口の方で喚声が上がったのが一瞬だけ耳に届いていた。
(何だろう・・・)
「どうぞ、こちらでございます」
言いながら、キーを差込みロックが解除されて、開けたドアの向こうを指し示した。
「ここですか?」
「はい・・・では、ごゆっくり」
深々と頭を下げて、ドアを閉める。
「ごゆっくりって・・・ここ、もしかしなくてもスイートルームだよね?」
初めて目にする光景に、しばらくボーッと眺めていたが、窓辺の重いカーテンの隙間から見下ろすと、美しい夜景が一望できた
「きれい・・・・・・」
ドアブザーの音に振り返る。
「・・・・・・はい」
「ルームサービスでございます・・・」
恐る恐るロックを外すと、ドアが勢いよく開いた。
・・・目の前に彼の、はにかんだような笑顔が現れたと思った・・・
次の瞬間、私は彼の胸に抱き寄せられていた。
その逞しい胸を頬に感じて、私は驚くという感情よりも、不思議なことに冷静に考えていた。
彼は、見た目よりも着やせするタイプなんだと・・・・・・
角を曲がればTホテルが見えるのに・・・
「・・・まずいな・・・・・・」
小さく呟いた後、私の方に向き直り、微笑んでみせる。
私を見つめたまま、何も言わない彼が気になって、つい聞いてしまった。
「・・・・・・あの?どうしたんですか?」
「・・・・・・これから言うことをよく聞いて。そして、僕の言うとおりにして欲しいんだ」
「どういうことですか?何の・・・」
「今は、何も聞かないで・・・言う通りにしてくれるね?」
「えっ?・・・・・・えぇ・・・」
彼の真剣な眼差しに、私は、つい返事を返してしまっていた。
しばらく考えた後で、「携帯電話を持ってる?」と聞く彼。
「えぇ・・・」
バッグから携帯を出して、彼に手渡した。
彼は慣れた手つきで、ナンバーを押し、どこかに電話しているようだ。
「はい・・・これから・・・では、お願いします。くれぐれも・・・」
途切れ途切れに聞こえてくる断片的な言葉では、会話の内容は理解できなかった。
振り返って、携帯電話を私に渡すと、ポケットから出したものを、握らせる。
「このキーを持って、Tホテルのフロントに行って欲しいんだ」
「これは・・・?」
「今、連絡したから行けば案内してもらえるように頼んであるんだ。僕は、一緒に行けない・・・」
「?・・・・・・」
「僕を信じて・・・・・・今は、これしか言えない。本当は信じてなんて、さっき出逢ったばかりなのに・・・無理を言っているのは分かっているんだ。でも・・・」
「・・・分かりました。フロントへ行けばいいんですね?」
「あぁ、そこでキーを見せればいい。・・・ありがとう信じてくれて・・・」
言いながら、彼は安堵の表情を見せる。
「・・・あの、あなたは?」
「大丈夫、少しだけ遅れて行くから心配しないで」
明るい笑みを浮かべる彼の表情に、不安でいっぱいだった心が少しだけ軽くなった。
「じゃあ・・・」
「後で逢おう・・・」
私は、その場に彼を残してTホテルへと向かった。
入り口の辺りに、2.30人の女性がいて、ホテルの関係者らしき人と言い争うのが聞こえてくる。
「どうなってるの?」
「教えてくれたっていいじゃない・・・」
「申し上げることはありません・・・他のお客様のご迷惑になりますので、お引取り下さい」
「えぇ~!?」
・・・耳に入ってくる会話が気にはなったけれど、今は彼が言ったとおりにフロントへ行く、そのことだけ考えていた。
「いらっしゃいませ・・・」
「あの・・・これをここで見せるようにと言われて来たんですが・・・」
フロントにいた男性は、キーを確認してから
「うかがっております・・・どうぞ、こちらへ、ご案内いたします・・・」そう言って、私の前を歩き出した。
その男性について歩きながら、問いかけてみた。
「あの・・・すみません」
「はい・・・何か?」
「どこに行くんですか?」
「詳しいことは何も・・・ただ、ご案内するようにと、仰せつかっておりますので・・・」
一緒にエレベーターに乗り込んだ。
キャーーーッ!!
扉が閉まる時に、ホテルの入り口の方で喚声が上がったのが一瞬だけ耳に届いていた。
(何だろう・・・)
「どうぞ、こちらでございます」
言いながら、キーを差込みロックが解除されて、開けたドアの向こうを指し示した。
「ここですか?」
「はい・・・では、ごゆっくり」
深々と頭を下げて、ドアを閉める。
「ごゆっくりって・・・ここ、もしかしなくてもスイートルームだよね?」
初めて目にする光景に、しばらくボーッと眺めていたが、窓辺の重いカーテンの隙間から見下ろすと、美しい夜景が一望できた
「きれい・・・・・・」
ドアブザーの音に振り返る。
「・・・・・・はい」
「ルームサービスでございます・・・」
恐る恐るロックを外すと、ドアが勢いよく開いた。
・・・目の前に彼の、はにかんだような笑顔が現れたと思った・・・
次の瞬間、私は彼の胸に抱き寄せられていた。
その逞しい胸を頬に感じて、私は驚くという感情よりも、不思議なことに冷静に考えていた。
彼は、見た目よりも着やせするタイプなんだと・・・・・・
by pink_pink_opal
| 2007-02-07 14:33
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