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kirakira na toki

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Crescent...29
2007年 01月 19日 |
玲那に遅れると告げた後、三沙子はため息をつきながら、携帯電話のボタンを押していた。
「はい・・・高宮です」
「あの、中野です。ちゃんと、指示通りにしています…」
「あぁ、電話をお待ちしていました。ちょっとお待ちください。替わりますので・・・」
「えっ?もしもし・・・・・・」
「・・・三沙子さんですか?いろいろとありがとうございました」
「あの・・・玲那は、幸せになれるんですよね?」

「・・・・・・」

「私、こんなことして良かったのかって…不安なんです。あの子は、本当に辛い思いの中…声まで失って、生きてきたんです。あなたに出逢って、声だけじゃなく無くしていたものを取り戻しました…でも、この1年、玲那は幸せそうじゃなかった。私…もう、玲那の涙は見たくないんです」




「・・・人によって、幸せの価値は違うでしょう。今夜、彼女に会うこと…僕も不安です。拒絶されるかもしれない…でも、逢わずにはいられない…彼女と一緒なら…どんなことも乗り越えられる、自信はあります。彼女は僕に…その力をくれる唯一の女性だから・・・今は、こんなことしか言えなくてすみません」
「・・・いいえ、少し安心しました」
「安心?」
「ただ好きだから、そんな思いだけじゃ越えられない壁があると思うんです。でも、大丈夫そう・・・玲那は、ああ見えても強いところもあるし・・・」
「えっ?」
「じゃあ、玲那をよろしくお願いします」
「えぇ・・・」
電話を切った三沙子は、この夜が・・・玲那にとって幸せへ向かう第一歩であって欲しい…
心からそう、祈っていた。


(・・・どうして、こんな所に?)
「・・・玲那」
彼は私に向けて腕を広げた。
ふっと、引き寄せられる力を断ち切るように、ギュッと目を閉じ…私はドアへ向かって駆け出していた。
(ダメ・・・・・・)
ドアノブに手を伸ばした瞬間、後ろから彼に抱き寄せられた。
「・・・やっと見つけたのに・・・玲那、どこにも行くな」
最後は、ため息混じりの、かすれた声だった。
「玲那・・・何か言って?」
私のうなじに唇を押し当てて、囁く。
「覚えていた・・・忘れていなかったよ、玲那の匂い」
うつむく私の耳元に唇を寄せ、囁き続ける。
「この髪も、頬も肩も・・・忘れられなかった」
彼の腕は、そっと下りて私のウエストに回された。
「絶対に忘れない自信があったのに・・・でも、ある朝起きたら、玲那の声が耳から消えていた。どんなに思い出そうとしても、微笑む君の顔しか・・・思い出せなくて、俺は・・・・・・」
そこまで言って、彼は腕の力を強める。
「だから・・・だから何でもいい。玲那、何か言って。君の声が聞きたいんだ」
彼は一瞬だけ腕を緩めて、私を自分の方に向かせた。
「玲那・・・?」
うつむいた私の頬に触れた彼の指が…とうとう見つけてしまった。

両手で頬を包むようにして、そっと顔を上げられた私は、彼の瞳から目をそらす。
彼に気づかれないように、私は嗚咽を堪えて泣いていた。
「玲那、どうして泣くの?俺に触られるのが、そんなにも嫌なのか?」
私は、彼の顔を見ずに強く首を横に振った。

「・・・玲那、俺は・・・君に会うのが怖かったよ。あの日、何も言わずにいなくなってしまったのは・・・俺の気持ちを負担に感じたんじゃないか…本当は、君を困らせていただけじゃないかって、何度も何度も考えた・・・でも、もう一度逢いたかった。どんな手段を使ってでも、君を見つけたかった・・・」
「・・・・・・」
「だから、君の声を聞かせて…」

あたたかい、彼の手のひらがスッと頬から離れていった。
「やっぱり、俺は来るべきじゃなかった。また、君を苦しめただけだった・・・」
そう言って、彼は私に背を向けてしまった。

私の大好きな背中。
大きくて、筋肉質で…でも、しなやかな彼の背中が、すぐ目の前に手を伸ばせば触れられる所にあるのに・・・
私は、両手を握り締めて彼の背中に縋りつきたい気持ちを抑えていた。
「ごめん、玲那・・・俺の勝手な思いで、また君を振り回してしまった・・・許して欲しい・・・」
・・・・・・ちがう…ちがうの!」
私の叫ぶような声に驚いて、彼は振り返った。

「私・・・私は、あなたが好き・・・あなたが好きなの」
私はその場に崩れ落ちるように、顔を伏せて泣いていた。

彼が傍に来て膝をつき、優しく髪を撫でて胸に抱き寄せてくれる。
私の時間は、一瞬にして…あの、ソウルの日々に戻ってしまったように感じていた。
「玲那・・・泣かない・・・で」
声が震えているのに気づいた私は、顔を覆っていた両手を下ろして、彼の顔を見上げた。
彼のきれいな瞳が、涙で潤んでいる。
「もう一度、さっきの玲那の言葉が聞きたいよ」
躊躇いながらも、見下ろす彼の瞳の優しさに、大きな勇気をもらった私は、呟いた。
「・・・・・・あなたが好き」
私が彼の瞳を見つめて、初めて自分の胸の中を告白した瞬間だった。

一瞬、彼は表情を歪ませて…我慢できないというように、力強く私を抱きしめた。
「玲那、玲那・・・君の声で一番聞きたかった言葉を聞けた・・・」
彼に名前を呼ばれるたびに、私の胸の中は幸せで満たされていく。
「玲那、もっと良く顔を見せて・・・」
ゆっくりと輪郭を確かめるように、きれいな指で頬を撫で、唇に触れる。
「もう、どこにも行かないで…君の声も何もかも、覚えておかなくても、隣を見たら君がいてくれる・・・ただそれだけでいいから・・・」
幸せだった…彼の言葉のひとつひとつが、私に幸せという雨を降らせてくれる。でも・・・・・・
「私…あなたを幸せにしてあげられないよ」
「玲那・・・・・・」
「俺が幸せかどうかは、俺にしか分からないことだろう?玲那は…俺といて幸せなの?」
「・・・・・・うん」
「じゃあ、それが俺の幸せだ」そう言って、彼は私の大好きな笑みを浮かべる。
「でも・・・」
彼の唇に塞がれて、続きを言うことが出来なかった。
優しく触れるか触れないかのキス・・・
だんだんと深く深く、熱いキスへ…
私はたちまちのうちに、彼のキスに酔わされていく。
「でも…は、もうなしだよ」

私を立たせた彼は、私の周りをくるりと1周した。
「きれいだよ、玲那…脱がせてしまうのが、もったいないぐらいだ。もう、こんな姿は俺以外に、見せちゃダメだから・・・」
いたずらっぽく、眉を上げてもう一度、唇を重ねる。
「分かった?もう、泣くなよ」
「日本語、すごく上手になってる」
私の耳元に唇を這わせながら、彼が答えた。
「1年間、ずっと勉強してたんだ…ちゃんと、君に逢えた時に気持ちを伝えられるように・・・」
「本当に・・・すご・く・・上手」
そう、途切れ途切れに答えたときには、もう背中のファスナーは下ろされ、ドレスは足元に音もなく落ちていた・・・・・・
by pink_pink_opal | 2007-01-19 02:29 | Crescent |