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kirakira na toki

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Crescent...24
2007年 01月 18日 |
(戻ってきちゃったよ・・・)
一歩進むごとに、彼から離れている現実に、玲那の足は前に進もうとしなくなった。
(きっと、彼は私とのことなんて、すぐに忘れてしまう…だから、私だって…)

「玲那!」
「三沙子?どうして?!」
「お帰り・・・本当に、声出てるよ…良かったね、玲那」
そう言って、三沙子は抱きしめてくれた。
「うん・・・」
「玲那、もしかして泣いてるの?そんなに私に会えなくて寂しかった?」
「うん・・・」
三沙子は、ソウルからかけてきた電話での玲那の様子がおかしいことに気づき、仕事を早退して迎えに来ていた。
「飛行機、予定と違ったけど…乗り遅れたの?」
「うん・・・いい男が、離してくれなくてね…」
おどけた様に言う私の肩を叩いて、三沙子が笑う。
「声が出るようになったと思ったら・・・まったく!はいはい・・・楽しかったのね」
「・・・うん、楽しかった。今度は、一緒に行こうね!」





「おみやげもあるよ。キムチに、キムチチョコに・・・」
「玲那~~何で、そんな…いかにも韓国って言うおみやげばかりなのよ~」
「次は、一緒に来るんだから、おみやげなんて何でもいいかなって」
「はぁ~~、あんたの友達やってるのもホント大変だわ・・・」
「何か言った?」
「うぅん・・・」
明るく振舞ってはいるけれど、やっぱり玲那の様子がおかしい。
「今日は、うちに泊まりな…ね」
「うん…」
「新しいDVDを仕入れたよ。一緒に見よう!」
「うん!」

2人で三沙子の部屋に戻って、途中で買ってきたもので夕食を済ませると、缶ビールを片手にDVDを見始めた。
「えぇ~とね、まずはコレね・・・」
流れてきたのは、何となく胸に突き刺さるようにメロディー。
「あっ・・・」
「上手いね~演技。引き込まれるわ・・・」
いつも何かと文句をつけながらDVDを見る三沙子だったが、発した言葉は、このひと言だった。
痛い・・・胸も体も、痛くてたまらない・・・
画面の中の、この声で呼ばれたんだ。何度も何度も、「レイナ」って…
この指で、私は何度も何度も上りつめた…
この腕も、この胸も、この背中も・・・この瞳も何もかもが、ついさっきまですぐ隣にあったのに。

「イヌイットは、愛する人を亡くすと、5日間その人の話をする。そうやって、亡くなった人の記憶を消すんだ。そして、それからは一切話題にしない。霊魂が行き場を失ってしまうから…」
確かに彼が言ったセリフがあった。
それは、役の中の彼が言った言葉ではなかったけれど…
(私、前に進めているでしょう…これでいいのよ、ねぇ?)
「玲那、感動しすぎじゃない?そこまで泣かなくても・・・」
私は、最初から最後まで涙を流し続けていた。
それに驚いた三沙子が、「もう、今日は寝ようか?」そう、心配そうに呟く。
「うん・・・そうする。おやすみ・・・」
「今日は、ソファで寝てあげる。だから、ベッドでゆっくり休んで…」
「ありがとう」
私は、三沙子のベッドで横になった。
でも目を閉じることができないでいる・・・閉じると、そこには彼の笑顔が浮かぶから。
それが辛くて、一睡もせず・・・一夜を明かしてしまった・・・・・・

「今日は、休む」ちょっと遅めの起床だった三沙子が呟いた。
「えっ?三沙子、調子悪いの?」
「ん?うん・・・ちょっとね」
「熱は?ないよ」三沙子のおでこに手を当ててみたけれど、冷たい。
「朝ごはん、作ったよ。食べられる?」
「うん!お腹は、すいてるのよ…」急に、三沙子は元気になった?

「やっぱり、味噌汁はイイね…」
熱々の味噌汁をすすりながら、ため息をついた私に、三沙子は笑う。
「出た…いかにも、海外行ってましたってセリフ!!」
「韓国の料理は、美味しかったよ。でも、やっぱり私は日本人だなぁ~って思った」
「・・・玲那、何かあったの?韓国で・・・」
「・・・・・・」
「言いたくなかったら、言わなくていいよ?」
「・・・私、逃げてきた」
「逃げるって?」
「欲しくて欲しくて…自分のものにしたくて堪らなくなって・・・だから、怖くなって逃げた」
「何?なんのこと?」
「私、悠基を裏切っちゃったかも・・・」
「どういうこと?もしかして、何かあったの?」
「・・・・・・ありすぎて…」
「…誰か好きな人が出来たとか?」冗談めかして言ったのに、玲那は何も答えなかった。
「玲那?本当なの?」
「ごめん・・・今は、言いたくない」玲那は、小さな声で呟く。
昨日からの玲那の様子が気になり、休むことにした三沙子だったが・・・
覗き込んだ彼女の瞳に光るものを見つけて、何も言葉をかけることが出来なかった・・・
by pink_pink_opal | 2007-01-18 07:40 | Crescent |