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2007年 06月 06日
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「オッパ!図書館には、どんな本があるの?」
不意に妹が繋いだ手を引き、目を輝かせて見上げてくる。
「そうだなぁ・・・とにかくたくさんあるんだよ。ほらっ寒いからちゃんと手袋して・・・」
「うん、オッパの手が温かいから平気!ねぇオッパ・・・でも、どんな本なの?たくさんじゃ分からないよ」
「う・・・ん、そうだなぁ~絵本もあるし、たくさん綺麗な写真が載っている本もあるし・・・あとは…」
「オッパ?!」
「ゴメン!すぐ戻るから、ここで待ってて!!」
図書館の前の通りまで来た時、道路を挟んで向こう側。
僕の視界に入ってきたのは・・・
(ジェヒ先生?)
僕の耳には、何か叫んでいる妹の声も届かない。
ただ、心も体も先生へ駆け出していた。
「ジェヒ先生!」
「ウン・ジェヒ先生!!」
やっと振り返ってくれたのは、ずっと逢いたくてたまらなかった女性(ひと)間違いなくジェヒ先生だった。
「・・・ビョンホン君?」
「・・・・・・」
苦しくて何も言えない。
僕の唇からは、荒い息がゼーゼーと漏れるだけだった。
苦しいのは走ったせいだけじゃない。
今、目の前に佇んでいるジェヒ先生の隣には、背の高い男の人が立っていたから・・・
「少しだけ座りましょうか?」
「・・・はい」
僕の目は、ジェヒ先生を通り越して男の人に捕らわれていた。
「・・・先に行ってて」
そう男の人に微笑んで言う、先生はとても綺麗だった。
男の人は黙ったまま、頷くと先生が持っていた大きな鞄を抱えて背を向けて歩いていく。
「先生・・・」
僕の声に振り返った先生の顔からは、さっきの男の人に向けられていたやさしい笑みは消えていた。
「先生、体は大丈夫ですか?」
「・・・・・・」
「みんな心配しています」
「そう・・・ありがとう」
「先生が来なくなって、みんな寂しがっているんです」
(何か言って・・・先生の声を聞かせて・・・)
(もう葉が落ちてしまった中庭の桜も、荒れ果ててしまった花壇も、先生を思い出させて辛いのに・・・先生が大好きだ。なのにいつの間にか、僕は・・・ジェヒ先生の声を忘れてしまったんだ)
「・・・先生?」
「・・・・・・」
「これから、どこかへ旅行に行くんですか?」
何か話しかけていないと、先生が行ってしまう気がして、僕は懸命に話題を探す。
僕は、さっきの大きな鞄を思い出して先生に問いかけた。
「・・・えぇ、ちょっとね。急に学校を辞めてしまって、ごめんなさいね」
「・・・・・・」
「体は、大丈夫ですか?」
「うん・・・もう落ち着いたのよ」
「旅行からは、いつ帰ってくるんですか?」
「・・・決まっていないの」
「・・・えっ?」
「さっき一緒にいた人の実家に行くから、たぶんしばらくは戻らないわ」
「・・・さっきの人は?」
「先生、結婚したの・・・さっきの人と」
そう呟いたジェヒ先生は、今まで見たどの笑顔よりも眩しく笑っていた。
「・・・・・・おめでとうございます」
胸がズキズキと痛くて、うまく息が吸えなくて苦しい・・・
「そろそろ行かなくちゃ・・・みんなに、ごめんなさいって、そう伝えてくれる?」
「・・・・はい」
「さようなら、ビョンホン君」
「さようなら・・・」
白い手を挙げて、もう一度だけ僕にいつもの笑みを見せると、先生はさっきの男の人の後を追った。
(・・・先生・・・ジェヒ先生・・・)
もう、届くことのない自分の思いが、胸を締め付けてズキンズキンと、音を立てているかのように痛む。
どんどんと、遠ざかって行く先生のことを考えるのは、辛く悲しかった。
(・・・先生、お元気で・・・)
二度と振り返らない先生の背中に、僕は精一杯の思いで別れの言葉を呟いた。
もう、こんな胸の痛み・・・二度と味わいたくないよ。
もう二度と・・・いやだ。
ふっと我に帰り、図書館へ駆け戻った僕は、妹を探したけれどどこにも見つけられず・・・
不安を抱えながら、家に急いだ。
そんな僕を待っていたのは、お母さんの金切り声。
そして、無言のままも悲しい目で僕を見つめたお父さんの、大きな手で頬を叩かれた。
この夜、家に入れてもらえなかった僕を、妹は心配げにカーテンの隙間から見ている。
僕は、声には出さず、ガラス越しに妹に謝った。
「ごめんよ・・・一人で怖くて、寒かっただろう?」
妹は首を横に振って微笑んだ。
「許してくれる?」
今度は、大きく縦に何度も首を振る。
そんな可愛い仕草にも、僕の胸の痛みは和らがなかった。
お父さんの大きな手形がついた頬が、まだヒリヒリと痛むけれど、今のこの心の痛みに比べれば何のことはない・・・
不意に怖くなる。
いつか、この胸の痛みも消えるのだろうか?
こんなにも大好きな先生のことを、忘れてしまう日が来るのだろうか?
そう考えると、一際激しく胸が痛んで、ギュッと締め付けられるようだった・・・
「今日は、午後から取材が入っています」
「・・・今年の桜も、そろそろ終わるんだな・・・」
「・・・日間の密着取材ですからね。聞いてますか?」
「ん?あぁ、取材だろう?」
「聞いているんなら、返事ぐらいして下さいよ」
「すまないな・・・」
「そんな顔して・・・笑いながら謝られても許しませんよ・・・」
「ハッハッハッハッ・・・」
「もう!」
大きく頬を膨らませて、肩をバシバシ叩いて来るスジョンの赤い顔が、
ますます可笑しくて笑いが止まらなくなる。
声をあげて笑いながらも、僕は、車の窓越しに花びらが舞い散る桜並木を見つめて続けていた。
未だに胸をえぐる様な・・・悲しい記憶が蘇る季節。
スジョンというのは、付き人とヘアメイクを兼ねて事務所に入った女性だが、年齢もそう変わらないので・・・
つい女扱いし忘れてしまって、毎回怒らせてしまう。
真っ赤になって起こる姿、それが楽しくて、からかっている事に、
スジョンは全く気づいていないようだった。
「スジョン、悪かったよ」
「そんな・・・そんな顔したって・・・」
スジョンは、僕がこの笑顔で謝るのに弱いって知ってるんだ。
「スジョン・・・?」
「・・・もっ、もう今度だけですよ?」
ほら、やっぱり・・・だ、そう思いながら返事をする。
「分かったよ・・・」
「絶対、次からはちゃんと聞いてくださいね?ビョンホンさん」
こんな時いつも、ブツブツ言いながらも、スジョンの目尻は笑っているんだ。
「スジョン・・・そろそろビョンホンさんて言う呼び方もどうだろう?」
「えっ?」
スジョンの顔が嬉しそうに緩みだす。
「何だか他人行儀だと思わないか?」
「えぇ、まぁ・・・」
「もうずいぶん一緒に仕事をしてきたんだ、もっと親しみを込めて呼んでくれないか?」
「・・・良いんですか?」
「あぁ、もちろんだよ」
「じゃあ・・・オッ」
「もう、ヒョンて呼んでくれて良いんだよ」
「・・・ヒョン?またからかって…ビョンホンさん!!」
「ハッハッハッハッハッ!」
「もう絶対に知りませんから!」
頭から湯気でも出そうな勢いで、ちょうど取材先についたのだろう。
スジョンは、車のドアを開けて出て行った。
「・・・ちょっと、やりすぎたかな?」
傍においてあるジャケットを手に取りながら、続いて車のドアに手を掛けた。
「・・・プッ、ちゃんと待ってるじゃないか?」
車の傍で待っているスジョンの姿に、また噴出してしまった。
ドアを開けると、まだ怒った顔でスジョンがドアを押さえてくれる。
「ありがとう・・・」
スジョンの好きな、飛び切りのスマイルで微笑んで見せた。
ますます赤くなるスジョンに、また笑いがこみ上げてくる。
「こちらで写真撮影してから、中でインタビューをするそうですから・・・」
古ぼけた木戸を押すと、一気に緑の香りが立ち込めた。
「こっちでいいのか?」
「はい・・・ずっとまっすぐに進むそうです。私は、車から荷物を降ろしてから行きます」
「・・・ん」
スジョンに返事をしながらも、その緑の庭が気になっていた。
何となく郷愁を誘うような、春の風に緑の木々が擦れあって起こす心地良い音、
緑の青臭いような匂い。
まるで吸い込まれるように、足を進めて行った。
「・・・・・・」
何か聞こえた気がして、歩みを止める。
少し奥の方で声がした?
「綺麗ね?韓国にも、こんなにたくさん…あるんだね・・・」
(・・・日本語?)
日本での仕事が格段に増えて、仕事をする上で、どうしても理解できなければ細かいニュアンスが伝わらず、不便を感じるようになっていた。
最近、密かに日本語のレッスンを重ねていて、簡単な言葉なら聞き取れるし話すことも出来るようになっていた。
(・・・日本の取材なのか?)
スジョンの話をまともに聞いていなかった自分に、少し呆れながら
ゆっくりと声のする方に、歩いて行く。
急に緑が途絶えた先で、眩しい日差しに目を細めた。
そして、信じられない光景を目にする。
舞い散る花びらに手をかざし、見上げているその姿に思わず声が出てしまった。
「・・・桜の精?」
「・・・キャッ!」
春風になびく、栗色の長い髪。
陽に溶けて消えてしまいそうにも見える、白い肌。
驚き、見開かれた黒目がちな大きな瞳。
無意識のうちに掴んでいた、細い腕に目を落とし・・・
再び視線を上げた先を・・・僕は、ただ呆然と見つめていた。
不意に妹が繋いだ手を引き、目を輝かせて見上げてくる。
「そうだなぁ・・・とにかくたくさんあるんだよ。ほらっ寒いからちゃんと手袋して・・・」
「うん、オッパの手が温かいから平気!ねぇオッパ・・・でも、どんな本なの?たくさんじゃ分からないよ」
「う・・・ん、そうだなぁ~絵本もあるし、たくさん綺麗な写真が載っている本もあるし・・・あとは…」
「オッパ?!」
「ゴメン!すぐ戻るから、ここで待ってて!!」
図書館の前の通りまで来た時、道路を挟んで向こう側。
僕の視界に入ってきたのは・・・
(ジェヒ先生?)
僕の耳には、何か叫んでいる妹の声も届かない。
ただ、心も体も先生へ駆け出していた。
「ジェヒ先生!」
「ウン・ジェヒ先生!!」
やっと振り返ってくれたのは、ずっと逢いたくてたまらなかった女性(ひと)間違いなくジェヒ先生だった。
「・・・ビョンホン君?」
「・・・・・・」
苦しくて何も言えない。
僕の唇からは、荒い息がゼーゼーと漏れるだけだった。
苦しいのは走ったせいだけじゃない。
今、目の前に佇んでいるジェヒ先生の隣には、背の高い男の人が立っていたから・・・
「少しだけ座りましょうか?」
「・・・はい」
僕の目は、ジェヒ先生を通り越して男の人に捕らわれていた。
「・・・先に行ってて」
そう男の人に微笑んで言う、先生はとても綺麗だった。
男の人は黙ったまま、頷くと先生が持っていた大きな鞄を抱えて背を向けて歩いていく。
「先生・・・」
僕の声に振り返った先生の顔からは、さっきの男の人に向けられていたやさしい笑みは消えていた。
「先生、体は大丈夫ですか?」
「・・・・・・」
「みんな心配しています」
「そう・・・ありがとう」
「先生が来なくなって、みんな寂しがっているんです」
(何か言って・・・先生の声を聞かせて・・・)
(もう葉が落ちてしまった中庭の桜も、荒れ果ててしまった花壇も、先生を思い出させて辛いのに・・・先生が大好きだ。なのにいつの間にか、僕は・・・ジェヒ先生の声を忘れてしまったんだ)
「・・・先生?」
「・・・・・・」
「これから、どこかへ旅行に行くんですか?」
何か話しかけていないと、先生が行ってしまう気がして、僕は懸命に話題を探す。
僕は、さっきの大きな鞄を思い出して先生に問いかけた。
「・・・えぇ、ちょっとね。急に学校を辞めてしまって、ごめんなさいね」
「・・・・・・」
「体は、大丈夫ですか?」
「うん・・・もう落ち着いたのよ」
「旅行からは、いつ帰ってくるんですか?」
「・・・決まっていないの」
「・・・えっ?」
「さっき一緒にいた人の実家に行くから、たぶんしばらくは戻らないわ」
「・・・さっきの人は?」
「先生、結婚したの・・・さっきの人と」
そう呟いたジェヒ先生は、今まで見たどの笑顔よりも眩しく笑っていた。
「・・・・・・おめでとうございます」
胸がズキズキと痛くて、うまく息が吸えなくて苦しい・・・
「そろそろ行かなくちゃ・・・みんなに、ごめんなさいって、そう伝えてくれる?」
「・・・・はい」
「さようなら、ビョンホン君」
「さようなら・・・」
白い手を挙げて、もう一度だけ僕にいつもの笑みを見せると、先生はさっきの男の人の後を追った。
(・・・先生・・・ジェヒ先生・・・)
もう、届くことのない自分の思いが、胸を締め付けてズキンズキンと、音を立てているかのように痛む。
どんどんと、遠ざかって行く先生のことを考えるのは、辛く悲しかった。
(・・・先生、お元気で・・・)
二度と振り返らない先生の背中に、僕は精一杯の思いで別れの言葉を呟いた。
もう、こんな胸の痛み・・・二度と味わいたくないよ。
もう二度と・・・いやだ。
ふっと我に帰り、図書館へ駆け戻った僕は、妹を探したけれどどこにも見つけられず・・・
不安を抱えながら、家に急いだ。
そんな僕を待っていたのは、お母さんの金切り声。
そして、無言のままも悲しい目で僕を見つめたお父さんの、大きな手で頬を叩かれた。
この夜、家に入れてもらえなかった僕を、妹は心配げにカーテンの隙間から見ている。
僕は、声には出さず、ガラス越しに妹に謝った。
「ごめんよ・・・一人で怖くて、寒かっただろう?」
妹は首を横に振って微笑んだ。
「許してくれる?」
今度は、大きく縦に何度も首を振る。
そんな可愛い仕草にも、僕の胸の痛みは和らがなかった。
お父さんの大きな手形がついた頬が、まだヒリヒリと痛むけれど、今のこの心の痛みに比べれば何のことはない・・・
不意に怖くなる。
いつか、この胸の痛みも消えるのだろうか?
こんなにも大好きな先生のことを、忘れてしまう日が来るのだろうか?
そう考えると、一際激しく胸が痛んで、ギュッと締め付けられるようだった・・・
「今日は、午後から取材が入っています」
「・・・今年の桜も、そろそろ終わるんだな・・・」
「・・・日間の密着取材ですからね。聞いてますか?」
「ん?あぁ、取材だろう?」
「聞いているんなら、返事ぐらいして下さいよ」
「すまないな・・・」
「そんな顔して・・・笑いながら謝られても許しませんよ・・・」
「ハッハッハッハッ・・・」
「もう!」
大きく頬を膨らませて、肩をバシバシ叩いて来るスジョンの赤い顔が、
ますます可笑しくて笑いが止まらなくなる。
声をあげて笑いながらも、僕は、車の窓越しに花びらが舞い散る桜並木を見つめて続けていた。
未だに胸をえぐる様な・・・悲しい記憶が蘇る季節。
スジョンというのは、付き人とヘアメイクを兼ねて事務所に入った女性だが、年齢もそう変わらないので・・・
つい女扱いし忘れてしまって、毎回怒らせてしまう。
真っ赤になって起こる姿、それが楽しくて、からかっている事に、
スジョンは全く気づいていないようだった。
「スジョン、悪かったよ」
「そんな・・・そんな顔したって・・・」
スジョンは、僕がこの笑顔で謝るのに弱いって知ってるんだ。
「スジョン・・・?」
「・・・もっ、もう今度だけですよ?」
ほら、やっぱり・・・だ、そう思いながら返事をする。
「分かったよ・・・」
「絶対、次からはちゃんと聞いてくださいね?ビョンホンさん」
こんな時いつも、ブツブツ言いながらも、スジョンの目尻は笑っているんだ。
「スジョン・・・そろそろビョンホンさんて言う呼び方もどうだろう?」
「えっ?」
スジョンの顔が嬉しそうに緩みだす。
「何だか他人行儀だと思わないか?」
「えぇ、まぁ・・・」
「もうずいぶん一緒に仕事をしてきたんだ、もっと親しみを込めて呼んでくれないか?」
「・・・良いんですか?」
「あぁ、もちろんだよ」
「じゃあ・・・オッ」
「もう、ヒョンて呼んでくれて良いんだよ」
「・・・ヒョン?またからかって…ビョンホンさん!!」
「ハッハッハッハッハッ!」
「もう絶対に知りませんから!」
頭から湯気でも出そうな勢いで、ちょうど取材先についたのだろう。
スジョンは、車のドアを開けて出て行った。
「・・・ちょっと、やりすぎたかな?」
傍においてあるジャケットを手に取りながら、続いて車のドアに手を掛けた。
「・・・プッ、ちゃんと待ってるじゃないか?」
車の傍で待っているスジョンの姿に、また噴出してしまった。
ドアを開けると、まだ怒った顔でスジョンがドアを押さえてくれる。
「ありがとう・・・」
スジョンの好きな、飛び切りのスマイルで微笑んで見せた。
ますます赤くなるスジョンに、また笑いがこみ上げてくる。
「こちらで写真撮影してから、中でインタビューをするそうですから・・・」
古ぼけた木戸を押すと、一気に緑の香りが立ち込めた。
「こっちでいいのか?」
「はい・・・ずっとまっすぐに進むそうです。私は、車から荷物を降ろしてから行きます」
「・・・ん」
スジョンに返事をしながらも、その緑の庭が気になっていた。
何となく郷愁を誘うような、春の風に緑の木々が擦れあって起こす心地良い音、
緑の青臭いような匂い。
まるで吸い込まれるように、足を進めて行った。
「・・・・・・」
何か聞こえた気がして、歩みを止める。
少し奥の方で声がした?
「綺麗ね?韓国にも、こんなにたくさん…あるんだね・・・」
(・・・日本語?)
日本での仕事が格段に増えて、仕事をする上で、どうしても理解できなければ細かいニュアンスが伝わらず、不便を感じるようになっていた。
最近、密かに日本語のレッスンを重ねていて、簡単な言葉なら聞き取れるし話すことも出来るようになっていた。
(・・・日本の取材なのか?)
スジョンの話をまともに聞いていなかった自分に、少し呆れながら
ゆっくりと声のする方に、歩いて行く。
急に緑が途絶えた先で、眩しい日差しに目を細めた。
そして、信じられない光景を目にする。
舞い散る花びらに手をかざし、見上げているその姿に思わず声が出てしまった。
「・・・桜の精?」
「・・・キャッ!」
春風になびく、栗色の長い髪。
陽に溶けて消えてしまいそうにも見える、白い肌。
驚き、見開かれた黒目がちな大きな瞳。
無意識のうちに掴んでいた、細い腕に目を落とし・・・
再び視線を上げた先を・・・僕は、ただ呆然と見つめていた。
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| 2007-06-06 18:14
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