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kirakira na toki

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Cross...11
2007年 02月 11日 |
「もしもし・・・・・・」
「何?まだ寝てたの?呆れた・・・幸、あんた明後日、暇だよね?」
「まだ寝てたって・・・まだ7時前だよ・・・えっ?何?何のこと?」
「ちょっと・・・付き合って欲しい場所があるんだ。OKでしょ?」
「お姉ちゃん・・・なんでいつもそうなの?何を言ってるのか、ぜんぜん意味不明なんだけど」
「いいからいいから!じゃあ、あさってから2日ほど開けておいて・・・じゃ!」
「も、もしもし?お姉ちゃん?!」

「切っちゃってるよ・・・」
私は、大きく伸びをしてベッドから勢いよく飛び起きた。

姉からの電話で起こされて、寝起きは最低だけど・・・
何となく、いいコトありそうな気がする。



私が実家に戻って、そろそろ2年になる。
会社でのことで、身も心も疲れきった私は、季節外れの有給を1週間とり、実家に帰省した。
ずっと実家に寄り付かず、電話さえ、めったにかけていなかった私が、いきなり帰ってきたこと・・・
両親は小躍りしそうなぐらい、喜んでくれた。

その実家での1週間で、私の心は決まった。
辛いことから逃げないのも、勇気のいること・・・
でも、漠然としてはいても夢に向かって踏み出すのも、勇気がいることだ。
そう思えた私は、休み明けの出社に辞表を持って行った。

私の事に無関心な顔・辞めて当然だという顔・辞めないでと悲しむ顔・・・
いろいろあった数年間だったけれど、私が前に進むためには、ここでの経験も必要だったはず。
そう思うと、何となく感慨深い。
突然の退職だったから、送別会もなく・・・以前なら、さみしく感じただろうが、今はかえってサッパリしていいとさえ思えた。

「幸・・・何でこんなに急なの?」
「ごめん・・・麻里にも何も言ってなかったよね?でも、少し前から考えてたことだったんだ」
「やめてどうするの?」
「実家に帰って、アルバイトでもしながらやっていくわ。両親も、私が傍にいると機嫌がいいんだ・・・」
「そう・・・思い残すことはないのね?」
「うん!」
「いい顔してるね、幸。最近、そんな笑顔見てなかったよ・・・何か、幸をそんなに強くしたの?」
「うん・・・いい出逢いがあったとだけ言っておくわ」
「好きな人が出来たの?」
「うぅん・・・出逢ってすぐ離れて・・・ただそれだけよ。じゃあ、そろそろ行くね」
「元気で・・・メールしてよ!」
「ありがとう麻里・・・」

私は、あの人と出逢った夜・・・人生最悪だと思っていた時に彼の笑顔に救われた。
そして帰宅した私は、すぐカメラを探した。
クローゼットの奥の方、自分からなるべく遠ざけるかのようにしまい込んでいた。
取り出すと、少しだけ重くて・・・でもすぐに手にしっくりとなじんできた。
あの夜・・・
彼と出逢って話すうちに、写真を撮りたい・・・そんな思いが、心から溢れ出そうになって来るのを感じていた。
そして私は決心できた。
今度こそ、どんなことがあっても写真を撮り続けていこうと・・・
実家に戻った私は、手近かなコンビニでアルバイトをしながら、休みの日には、カメラを抱えて写真を撮りに出かけるようになった。
どうしてこんな楽しいものを、なかったもののように思い込もうとしたんだろう。
後悔と未来への希望・・・は、背中合わせだ。


「今度の渡日では、北野監督に会えるのか・・・そうだ!DVDどこにやった?えぇと・・・ここら辺にあったような・・・」
無造作に積み上げたDVDの山の中、目当てのDVDを探す。
適当に置いてあるようで、バツグンの記憶力を持つ彼は、1枚のDVDを探す。
「あった!おっ・・・うわっ!!」
ガラガラガッシャーン!!
「あぁ~~~メチャクチャだ・・・」
「お兄ちゃん・・・またやってるの?いい加減、片付けないと・・・同じことの繰り返しだよ」
ドアの隙間から顔を覘かせた妹が、呆れ顔で言い捨てていく。
「分かってるんだ・・・けど。まぁ、いいか・・・目当てのものは、見つかったし・・・」
DVDプレーヤーにDVDを入れようと、ケースを開けた時、何かが足元に落ちた。
何気なく拾い上げた瞬間、そのまま吸い込まれるように・・・周りの景色が変わった気がした。

「あっ・・・・・・あの時の」
2年ぐらい前だろうか・・・
東京の街角で出逢った女性との写真だった。
懐かしさが一気に込み上げてきて、その後に胸を覆ったもの・・・に、少しだけ驚きながら、指で写真の中の、彼女の頬をなぞる。
そして、その指で自分の唇に触れた。
「君には、驚かされてばかりだ」
道に座り込んでいた君・・・涙を目にいっぱいためた君。
そうかと思えば、楽しそうに声を上げて笑う君。
そして、さよならと唇に触れた君の柔らかい唇・・・
「覚えてるよ」
写真ンの中の、はにかんだような表情・・・自分を見上げる彼女の潤んだ瞳、髪の甘い香りも、華奢に見えたのに抱きしめると心地良かった熱い体も・・・
あの時の、いろんなことが思い出される。


「元気かい?あの時みたいに泣いていない?」
そう問いかけて、彼は再び元のケースに写真をしまい込んだ。
甘い心の痛みと共に・・・・・・
by pink_pink_opal | 2007-02-11 01:16 | Cross |